活気づくペット保険業界の動向を探る<後編>

2013/04/29

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低価格路線を修正したペット&ファミリーの後釜として、威勢よく市場に参入した日本ペット。

ペット&ファミリーの契約客をターゲットに保険の切り替えを迫る”ハゲタカ戦術”が透ける。

一方で、豊富な経営資源を有する損害保険各社も新戦略で巻き返しを図っている。

にわかに熱気を帯びてきたペット保険業界の素顔に迫る。

ついに中堅損保が動いた!

今年1月、ペット保険業界に激震が走った。中堅損保の共栄火災がペット分野の保険を発売する、とのニュースが流れたからだ。

国内損保は長らくペット保険市場への参入をためらっていた。ペット保険は損保が得意とする自動車保険や火災保険とは全く異質で、そのノウハウを活かす局面が乏しい。加えて、国内の市場規模はせいぜい数百億円程度で、自動車保険や火災保険と比較すれば桁が1~2つ足りない。つまり「新規参入のハードルが高いのに期待できる果実が少ない」という評価が定着していた。

そんな通り相場を共栄火災が覆したのはなぜか?そこにはこんなカラクリがある。

共栄火災はペット保険を新たに開発して販売するわけではない。同社の主力商品である自動車保険に「ペット補償特約」という形で発売する。一般的なペット保険が提供するペットの入通院や手術の補償ではなく、自動車事故により乗車するペットのケガや飼い主が入院した場合のペット預託費用を補償する仕組みだ。補償限度額も10万円程度に抑えられ、800円程度の掛金で提供されるという。共栄火災自らが指摘するとおり、ペットをとりまく様々な事故を対象とするオールリスク補償ではない。むしろ、簡便な手続きかつ低廉な掛金で補償を求めるユーザーに対応した商品設計で、補償範囲は極めて限られている。

国内損保参入の兆候?!

ならば従来のペット保険とは競合しない、そう考えるのは早計だ。

自動車保有台数が減少傾向にある国内市場において、国内損保の主力商品である自動車保険はこの先も見通しは明るくない。この穴埋めができる新保険商品の開発が、損保各社の間で急がれている。あいおいニッセイ同和損保が介護分野に傾注するのは、その好例だ。

ペット飼育世帯の増加に伴ってペット保険の注目度は年々高まり、市場規模も他の保険分野とは比較にならないほどのペースで成長する。共栄火災は補償条件を絞った自動車保険の特約という形で、大きなリスクを抱えることなく、伸びる市場につばをつけた格好だ。今後、同特約の売れ行き次第では、本格参入の可能性も高まる。

今回の発表は、特に国内中堅損保にとって、昨今のペット保険市場は食指が動く対象だと捉えることもできる。他社との差別化が不十分な国内中堅損保が、大手社にはない機動力や迅速な決断により、突如としてペット保険市場へ参入することも十分に考えられる。そうなれば、中堅とは言え、既存のペット保険会社を遥かに凌ぐ経営資力や強靭な販売ネットワークにより、業界シェアが一気に塗り替えられるのは確実だろう。

アクサも動いた、大幅値下げ

共栄火災の発表からわずか2日後、今度はすでにペット保険を扱う損害保険会社のアクサが、ペット保険の掛金引下げを発表した。4月以降に補償が始まるすべての保険契約が対象で、公表されている引き下げ幅は愛犬用が20%超、掛金が割安な愛猫用でも5~10%の予定だ。

今回の掛金引下げは補償条件の変更等を伴わない単純な値下げ。

現在の掛金水準は、アニコムやアイペットといったペット専業の損害保険会社と比べても決して見劣りしないほぼ平均的な水準だっただけに、新掛金に移行すれば十分な価格競争力を持つことになる。

本気のアクサが「台風の目」になる!

今回の値下げをアクサが本気になった証拠と捉える専門家がいる。

アクサは2年前、同じく外資系損保のアリアンツ火災海上保険からペット保険事業の譲渡を受けてこの業界に参入した。

仕入れた原材料を加工して製品化し販売する事業の収支モデルとは異なり、保険事業のコストに相当する保険金の支払いは、保険を販売した以降に遅れて生じるという特性がある。当年度に販売した保険の最終的な収支は、その保険契約に基づいて支払われる保険金が確定して初めて明らかになる。アクサは、参入初年度を試験的な運用に留めて保険データの収集に努め、本格展開の是非を模索していた。出揃ったデータを分析し、勝算があると見るや、大幅な保険料引下げを敢行し一気に勝負に出てきた――との見立てだ。

多くのユーザーがペット保険を選ぶポイントとして掛金水準とともに挙げるのは、保険会社の信用力だ。世界屈指の保険グループブランドを引っさげ、ペット保険を扱う損害保険会社では最も安い掛金を提供しようとするアクサ。その果敢な挑戦は、同じく損害保険会社の看板を持つ業界最大手のアニコムやアイペットを恐らく突き動かすだろう。本気になったアクサが今後の日本のペット保険市場における台風の目になる可能性すらある。

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ライター紹介

石川 拓也
保険、共済関連のフリーライターです。昼間の顔は、某保険会社関連企業でアナリストをしています。1974年生まれ、男性。ちなみに、名前はペンネームです。 更新情報などを配信しますので、よろしければ、Twitterへフォローをお願いします。

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