補償対象になる治療費とならない治療費 – ペット保険を徹底比較 vol. 3
2012/09/17
東京都に住むNさんの愛犬レオ。人間で言えば80歳ぐらいの老犬で、元気に駆け回る姿は遠い過去の話。最近は“あの事故”のせいでろくに散歩にも行きたがらず、縁側の陽だまりで床に腹を着けた姿勢のまま、誰からも邪魔されることなく、いつまでものんびりと過ごすのが日課になっている。
ある日、Nさんは加入するペット保険会社からの連絡を受けて動転した。
つい先日の話。レオは散歩中に足を滑らせて前両肢を骨折してしまった。高齢のために「完治するまでに時間がかかるだろう」と、行きつけの動物病院の先生からも指摘を受けた。それでも治療費の70%を補償するNさんのペット保険は、通算70万円まで補償されるため、30%の自己負担分を含め、治療費総額が100万円までなら保険が使えるはずと思い胸をなでおろした矢先のことだった。
Nさんが保険会社へ事故の連絡を行うと、返ってきた回答はこうだった。
「ご加入頂いている保険がもうすぐ満期を迎えますね。ただ残念ながらレオちゃんは高齢のため、これ以上保険契約を更新することができず、今回をもって終了となります。今回のケガについては満期までの治療費は補償の対象となりますが、それ以降はあいにく補償することができません。」
満期まではあと2週間。一方、動物病院の先生からは完治するまで2ヶ月ぐらいかかるだろうと言われている。つまり、保険会社の回答は、補償限度額に達していないにもかかわらず、約1ヵ月半もの間の治療は補償の対象外となり、その間の治療費はすべて自己負担になることを意味しているのだ。
補償の対象は、原則、契約期間内の治療だけ
ペット保険の契約期間のことを「保険期間」という。
ペット保険の多くは、保険期間中に生じた事故によるケガまたは発症した病気の治療として保険期間中に動物病院等で診療を受け、支払った治療費を補償する。
簡単に言うと、「ケガまたは発病」と「治療」の両方が、保険期間中に発生しなければ、補償の対象とならないということだ。
したがって、Nさんの例のように、保険期間中にケガをしたにもかかわらず、保険期間が終了する満期日以降の治療は補償の対象外となってしまうのだ。ただし、保険契約の更新をした場合には、契約は終了せずに継続されるので、これら治療費も補償の対象となる。
Nさんのケースでは、レオの年齢がペット保険会社の更新可能年齢を超えてしまったため、保険契約を更新できず、契約満了後の治療費を全額自己負担しなければならなくなってしまったのだ。
ここで、保険契約の有効期間中に請求された治療費のみを対象とする方式を、ここでは「請求ベース」と呼ぶことにする。(図1参照)アイペットやアクサ、アニコムの損保3社を始め、多くのペット保険会社がこの方式により補償を提供している。
ところが、特例を設けている会社もある。
ペット&ファミリーでは、保険期間中に開始した治療ならば、同治療に限り、保険期間終了後も延長補償を行う。
もっとぎゅっとも同様の延長補償規定を設けるが、通院補償については保険期間終了後30日以内の通院に対象を限定している。
FPCや日本アニマル倶楽部では、入院補償に限って同様の延長補償を認めている。
要注意!「請求ベース」の落とし穴
「請求ベース」で補償を行うペット保険会社は、最初に保険に加入した時以降に生じたケガや発症した病気に対して、保険契約が更新されている限り治療費を補償する。したがって、これらのうち更新可能年齢が設けられているアクサ及びFPCについては、Nさんのような事例に遭遇する可能性があることを認識しておく必要があるだろう。(表1参照)
また、保険契約が更新されている場合に限り治療費が補償される仕組みは、逆に言えば、補償を受け続けるためには保険契約の更新が途絶えるような事態は避けなければならない。
例えば、銀行口座振替による月払いで掛金を支払っている場合、銀行口座の残高不足等により掛金の引き落としができず、その後の保険会社側の督促にも応じなければ、掛金の不払いを理由に保険契約が解除されて契約は終了する。
慌てて保険に再加入し、運よく加入が認められたとしても、加入後の保険契約は前の契約の更新契約とはみなされない。一度、契約解除された時点で更新が途切れてしまうのだ。
この場合、更新が途切れる前に生じたケガや病気の継続治療は、再加入後の保険契約では補償対象外となってしまうので注意が必要だ。
契約更新時期をまたぐ治療には気をつけろ!
実は、「請求ベース」とは違う考え方で補償を行っている保険会社もある。ここでは、「発生ベース」と呼ぶことにしよう。「発生ベース」は、ケガや病気が保険契約の有効期間中に発生(または発症)したならば、仮に保険契約が終了した後でも治療費を補償してくれる。(図1参照)
ペットメディカルサポート及びペッツベストが「発生ベース」で補償を提供している。
「発生ベース」ならば、更新可能年齢に達して契約更新ができなかったり、掛金の不払い等により更新が途切れた場合でも、契約の有効期間中に発生したケガや病気であれば、完治するまで治療費が補償される。
「請求ベース」に比べ、「発生ベース」の方が契約者にとっては有利に見えるが、支払限度額や限度日数の設定があるため、加入者を困惑させてしまう場合もあるようだ。
例えば、ペットメディカルポートでは、通院の限度日数は20日と決められている。
同社のペット保険に加入するEさんは、つい先日保険契約を更新したばかりだ。契約更新直前に愛犬サクラに発症した口内炎の治療で、契約更新後に3日ほど動物病院へ通院した。その治療費の補償を受けるために保険金を請求したところ、今回は「補償できない」と断られたと言う。
実は、サクラは10ヵ月ほど前にも股関節疾患を患い、動物病院へ20日通院した。これにより、この年度の通院限度日数に達してしまい、通院補償枠を使い切っていたのだ。
前年度の通院限度日数を使い切っていることを、Eさんは、もちろん知っていた。だから、今年の更新をして新しい契約になってから請求をしたのだ。
ところが、「発生ベース」の場合、治療を受けた日時よりも、事故日や発病時期に重点が置かれる。今回の口内炎は、保険契約更新前に発症したものであったため、前年度の契約に基づいて補償が行われる。
すなわち、前年度契約の通院限度日数を使い切ってしまっていたEさんの場合、たとえ治療が新年度契約の更新後であったとしても、発病時期が更新前であったために通院補償が受けられなかったのだ。
限度日数や限度額が無い場合には、圧倒的に「発生ベース」のほうが利用者にとっては使いやすいが、各種の限度が設定されている場合は、上記のようなケースが発生することもあるので、自分が契約している保険の条件をよく理解した上で、保険金の請求をしたほうが良いだろう。
事故日や発病時期 | 治療時期 | 請求ベース | 発生ベース | |
---|---|---|---|---|
治療① | 保険期間開始前 | 保険期間中 | × | × |
治療② | 保険期間中 | 保険期間中 | ○ | ○ |
治療③ | 保険期間中 | 保険期間終了後 | × | ○ |
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ライター紹介
石川 拓也
保険、共済関連のフリーライターです。昼間の顔は、某保険会社関連企業でアナリストをしています。1974年生まれ、男性。ちなみに、名前はペンネームです。 更新情報などを配信しますので、よろしければ、Twitterへフォローをお願いします。